『 王女さまが ・・・ いいの?   ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの世も ヒトは誰も自分の持っていないものに憧れるものだ。

  ― そう、いつだって 隣の芝生は青い ってことなのだが。

 

天井近くまで開いた窓から 柔らかな光がこぼれてきている。

何枚も重なった透紗とレースのカーテンの奥には 広々とした部屋がみえる。

毛足の長い絨毯の上に所々に別に毛皮が敷かれていて 豪華な雰囲気だ。

その一角を 大きな机が占めている。

磨きこまれたマホガニー材で 脇には凝った彫刻が見える。  どちらにせよ高級品だ。

机の上にはアンティーク・グラスのランプスタンドと並んでPC、モニターやらプリンターにスキャナー

そして雑誌やら本が何冊も乱雑に広げられている。

 

「 ・・・う〜〜ん ・・・・  やっぱ ねえ ・・・ 」

 

机の前から溜息まじりの声が聞こえた。

「 ふん ・・・ 古典的だけど、これが一番、かあ・・・ 

 そっか、 だからあの映画もその方法を採ったわけね〜〜 ふむ? 」

ばさ・・っと長い髪が机の上に広がった。  

「 う〜ん ・・・かなりリスクが高いけど ・・・  あ でもあそこは治安抜群だって聞くし。

 そんなに心配する必要  ないかも ・・・ 」

 

      コン  コン   ・・・  コン  

 

遠くからノックの音が聞こえた。

「 ― 聞こえません。 」

机の上に突っ伏してPCを眺めていた人物は大声で応え またじっとモニターに視線をもどす。

「 やっぱりこの方法で行くわ!   ―  私にだって チャンスはあるのよ! 」

 

      コンコン  コン!    お開けくださいまし。 姫様!

 

ノックの音は執拗に続き今度は声までついてきた。

「 だから〜〜 き〜こえ〜〜ませんってば ! 」

今度はかなり大きな声が部屋の中に響いた。

「 せっかく外に出られるチャンスなんですからね!  ・・・なんとかしたいじゃない?

 私にだって ・・・ その〜いろいろできるんだから! 」

 ふん! と鼻息荒く彼女は嘯くと やっと机から身体を起こした。

 

      コンコンコンコン!!!!  開けますよ、開けますからね。 

 

「 ・・・ はいはいはい。 わかりました、今 ・・・ 開けますってば! 」

ドアにむかって声を張り上げると、彼女は不承不承に立ち上がった。

「 ・・・っとにウルサイんだから〜〜 自分の部屋にいるときくらい放っておいて欲しいわ! 」

  ズ ー ・・・・ ズ〜〜  

床に脱ぎ散らされていた室内履を 爪先にひっかけるとそのまま引き摺って歩き出した。

「 ―  ばあやです、 開けますよ? 」

「 今〜〜〜 開けるってば!!  ちょっと待ってよ ! 」

「 お早くお願いします。 」

「 ・・・ はいはいはいはい    ふん ・・! 」

ぐしゃぐしゃの髪を手でなんとかなでつけ くしゃくしゃの部屋着を引っ張り ― のろくさのろくさ

彼女はドアまで 行った。

 

    ― がちゃ。     はい あけました〜

 

「 姫様〜〜〜  お持ちになるドレスの件でご相談が ・・・ あら まあ。 」

「 なんでもいいの、 ばあやが好きなの、荷物にいれて。  はい じゃあね。 」

「 ちょ ちょっと! ちょっとお待ちくださいまし。 」

ちょろっとだけ顔をみせ、そのまままた閉めようとするドアを 初老の婦人はがし!っと押さえた。

「 まだ! まだご用は済んでおりませんよ、姫様〜〜 」

「 ・・・ なに。 」

「 ですからドレスの件です。 カクテル・ドレスの他にですね〜 」

「 だから。  ばあやにお任せ。  ね それでいいでしょう? 

 普段着は自分で詰めます。  ほら これとか・・・ 」

彼女は今身につけているシワシワの部屋着を指した。

「 それはもう ・・・ お役御免でございましょう。 少なくとも他所様でお召しになるものでは

 ありませんね。  」

「 ・・・別にヒトに見せるものじゃないわ。 」

「 それでも。 <他所> では誰の目に触れても良いお召し物をお願いします。 」

「 でもね、今度の <旅行> は プライベートなものだし・・・

 ねえ ドレスなんか必要ないわ。  だってそんな機会は 」

「 いえ。 こんなこともあろうかと! という備えは常にしておかねばなりません。 

初老の婦人は一歩も引かない。

きっちりひっつめた髪に 一筋の乱れもなく、スーツの襟元に覗くブラウスは真っ白で

一つの皺も見当たらない。

 

   ・・・ よくそんな恰好、 してられるわよね〜

   ちっちゃい時から思ってたけど・・・

   ばあやってば ・・・ いつ、楽な服、着てるのよ〜〜

   ひょっとして。 スーツで寝るの ・・・?

 

「 はい? なにか仰いましたか? 」

「 − い〜え。 なにも。  それじゃ全てばあやに任せるから。

 好きな風にきめて好きなようにしてちょうだい。  

 私はアンダーウェアだけ、自分の荷物に入れてゆきます。 」

「 ひいさま。  そちらも全て新調したものをご用意しております。 」

「 ・・・・・  はいはいはい  それじゃそっちもお願いします。  はい おしまい! 」

「 ァ! まだ アクセサリーが・・・ 」

「 はい お終いです〜〜〜〜 」

彼女は両手で強引に ドアと一緒に件の女性を外に押し出した。

 

 「  あ〜〜〜 もう!  絶対に 絶対に今度のチャンスは逃せない! 」

 

ひと声喚くと 彼女はまた机の前に戻り、PCにかじりついた。

「 ふん ・・・ 私だってね! ヒトナミな <青春> を楽しむ権利はあるはずよ。

 う〜〜〜 なんだってこんなトコに生まれちまったのかしら! 」

ちら・・・っと豪華な部屋を見渡し、彼女はふか〜〜い溜息をついた。

「 ・・・ 憧れてるのね〜〜 コンパクトな部屋とかバス・ルームとキッチンとベッドが

 一緒くたになってる部屋とか〜 ・・・ いいなあ〜〜 」

   カタカタカタ ・・・  彼女はキーボードを叩きメモを取っている。

「 チャンスなのよね〜〜  クール・ジャパン♪ ですものね〜〜 

 うふふふふ〜〜ん ・・・ こんなチャンス、作ってくださってお父様に感謝だわ〜〜 」

 

    あ ・・・。

 

彼女の指がキーボードの上でとまった。

「 御礼申し上げてない・・・! 私ったら・・・!  そうだわ 今からでも!」

ふ・・っとシワシワな部屋着に視線が落ちた。

「 ・・・ やっぱ こりゃ・・・マズいわ〜〜 」

椅子をけって立ち上がると、彼女はクローゼットに駆けていった。

 

 

 

  コツ コツ コツ ・・・

 

できるだけ足音を控え その部屋の前まで行った。

「 ・・・ これは ・・・  申し訳ありませんが ・・・ 」

案の定 その豪華堅牢なドアの前にはドアと同じくらい頑健な人間が立っていた。

「 ああ ご苦労様。  いいの、ちょっとお休みなさい、と申し上げるだけよ。 」

「 しかし ・・・ 」

「 あら 娘が父親にお休みなさいを言ったらいけない? 」

「 い いえ それは・・・ 」

「 なら いいでしょう? 私、凶器なんて持ってなくてよ? 」

「 ・・・ ほんのすこしだけですよ? 」

「 わかってます。 すぐに戻りますから ・・・ こっそりドアを開けておいてね? 」

にっこり。 彼女の特上の笑みに勝てるオトコはいない。

「 ・・・・ どうぞ? 」

「 ありがとう♪ 」

投げキスをし、彼女はドアの隙間からするり、と入り込んだ。

 

   ・・・・ おとうさま ・・・・

 

照明を低く抑えた部屋の中には 薬の匂いが濃く漂っていた。

「 ・・・・ おとうさま ・・・? 」

足元が埋もれるほどの絨毯を踏みしめ 部屋の奥へと進んでゆく。  

ぼんやりとした灯の下 豪華な調度はどれもこれも冷ややかに闖入者を見下ろしている。

 

    小さい頃 ・・・ ここで遊んで頂いたこともあったわ・・・

    そう ・・・ お母様も一緒に にこにこ ・・・笑っていらした ・・・

 

懐かしい思い出に 視界が滲む。  あの頃はなんにも知らずに幸せだった・・・

広い部屋の置くに濃い闇が澱んでいて ― 天蓋つきの大きな寝台が据えてある。

 

「 ・・・ 誰かな ・・・ 」

 

下がった帳の奥から 低い声が聞こえた。

「 ! お父様!  まだ起きていらっしゃるの? 」

「 ・・・ ああ おまえか ・・・ おいで ・・・ 」

「 お父様 ・・・ !  」

ぱたぱたと駆け寄り、 帳を払い彼女は寝台の中に入り込んだ。

  ― そのヒトは 豪華な寝台に半ば埋もれていた。

 

「 ・・・ どうした・・・ うん? 髪がくしゃくしゃじゃないか ・・・ 」

 カサリ ・・・ 老いた手が伸び、乱れた金髪を撫でる。

「 お父様 ・・・ 」

「 お前のお母様譲りの綺麗な髪なんだ・・・大切にしなければなあ・・・

 お父様の宝モノなのだから な ・・・  」

「 ・・・ はい ・・・ 」

「 ・・・ 非公式の旅 ・・・楽しんでおいで。 」

「 はい!  ありがとうございます、お父様 ・・・! 」

「 まだまだ楽しい日々を過したい年頃なのに ・・・ すまんなあ お父様がこんなことで・・・

 本当なら数年留学させてやりたいのに。 」

「 ううん ううん お父様。 旅をお許しくださってありがとうございました。 」

「 なあに ・・・ お父様はまだまだ頑張るからな、 安心して行っておいで。 」

「 ・・・ お父様〜〜 」

パタ パタ パタ  ・・・  涙の雫が絹の上掛けの落ちて点々と滲みをつくる。

「 これこれ ・・・ 子供じゃないだろう、もう立派なレディが ・・・ 」

「 うふふ ・・・ 私はいつだってお父様のちっちゃなキャシーなの。 」

「 そうだったなあ ・・・  ・・・ う ・・・ゴホ ・・・ 」

「 お父様 ・・・! 大丈夫?  ほら・・・ このお水を・・・ 」

「 ・・・う  うう ・・・・   ありがとう ・・・  さ もうお休み ・・・ 」

「 はい。 お父様にね お休みなさい、 を申し上げたかったの。 」

「 そうか そうか ・・・   キャシー ・・・ Mr.ジョンとは仲良くやっているかい。 」

「 ・・・ え ・・・・ あの方 ・・・ 立派な殿方ですけど 大人しすぎますわ。 」

「 おやおや ・・・ お転婆姫には彼はオトナすぎるかな。

 しかし彼はしっかりした誠実な男性だ。  彼を信頼し ― 愛してゆきなさい。

 二人で ・・・ 頼んだよ。 」

「 ・・・・ はい ・・・・  」

「 それじゃ ・・・ お休み ・・・ 」

「 はい、お父様。  お休みなさいませ・・・ 」

 

彼女はゆっくりと寝台から出ると しばらく佇んでいたがやがて静かにその部屋を後にした。

 

 

 

こっそり自室に滑り込むと 部屋の灯を消した。

「 ・・・ 私はもう寝ました〜〜〜 っと 」

中庭に面した窓のカーテンを わざわざ少し開けておく。 

< 部屋の電気は消えています > という事実を表明するためらしい。

ご本人は まだ寝るつもりなどさらさらないようで 再び机上のPCにかじりついた。

「 さあ〜〜〜♪♪  準備おっけ〜〜♪  ふふふ・・・ う〜〜んと楽しい旅にするわ。

 ええ あの方法で素敵なヒトをゲットするの。  」

 

      ―  彼を信頼し 愛してゆきなさい

 

        二人で  ・・・ 頼んだよ

 

今さっき 聞いたばかりの父の言葉が ずん・・・っと胸の内に響く。

父はわざと言葉を濁したけれど、その真意は十分にわかっている。

わかっているからこそ。  ―  このチャンスを逃したくない。

「 ・・・ そりゃあ  ・・・ 判っているわ。  あのヒトは 立派なヒトよ。 

 いつだって穏やかで いつだってにこやかで ・・・ 私が何を言っても笑って

 受け止めてくれる  わ ・・・ 」

    ・・・・ そう、 あのヒトはいいヒトなのだ。  パートナーとしては最適なのだ。

ふん ・・・ 彼女のハナイキは大分と低めになってきた。

「 ・・・ 判っているわ。  私の ・・・ その、立場には彼みたいなヒトが必要だって・・・・

 ―  けど。   けど ね! 」

 

   どん。   マホガニー製の机もびっくりするくらいの 鉄拳 が落ちた。

 

「 私だって ―  一度くらい冒険してみたい〜〜〜の! 」

うんうん、と頷くと 彼女は再びPCにかじりつき、あれこれと検索を始めた。

 

  ふんふんふ〜ん♪ ・・・ 楽し気なハナウタはまだしばらく続いていた。

 

 

 

 

 

その朝も からりと晴れ上がり リビングの窓からは気持ちのよい光がいっぱいに差し込んでいる。

「 ああ 洗濯日和ねえ ・・・  よし! シーツも洗うわ! あっとその前に・・・ 」

す〜〜は〜〜 ・・・ 亜麻色の髪・美女は空に向かって思いっきり深呼吸をし ―

 

「 ・・・ ジョー 〜〜〜ォ!!! 急がないと〜〜 遅刻よっ ! 」

 

フランソワーズは二階に向かって最大限にボリュームアップで叫んでいる。

「 ったく〜〜 毎朝 毎朝 毎朝 〜〜〜   

 こんなに寝起きの悪いヒトだ、なんて思っても見なかったわよ! 

 葉擦れの音にも目を覚ます・・・ そんな姿からは想像できないわよねえ〜  

・・・あああ 人生の選択を誤ったわ、わたし。 」

真っ白なエプロン姿が キッチンへ戻り大きな溜息をはく。

「 おはよう・・・ この空を同じくらい綺麗だね ・・・ なぁ〜んて朝からあまぁ〜いお早うのキス・・

 にっこり見つめあって二人でゆっくりと朝ゴハンを食べるの。

 あ〜あ ・・・ そんなヒトを選ぼう! って思ってたのに・・・・ 

ふぅ〜〜 特大の溜息をつき、彼女はもう一度、二階の雰囲気に耳を澄ます。

相変わらず 物音は聞こえてこない。

「 ・・・ ふん。  もう一回怒鳴ってほしいらしいわね。  ( す〜〜は〜〜〜 ) 

 

    ―  ジョー −−−−−−−−− !!!!  お   き    て  !!!!  

 

数分後 ―  勝手気ままな方向を向いた髪を 懸命に手で撫で付けている青年が

ぼわぼわと欠伸をしつつ朝食のテーブルにやってきた。

「 ・・・・ ふぁ〜〜〜あ ・・・・ お はよう  ふらん〜〜 」

「 はい、 おはよう。   急いで食べないと遅刻です。 」

「 ・・・ う 〜ん ・・・・ ふぁ〜〜 ・・・ 」

「 はい  コーヒー。  う〜んと濃く淹れましたので。 」

「 う うん ・・・・  ( ズズ ・・・ )  ふぁ〜〜 」

ぼさぼさアタマが大欠伸連発しつつ ・・・ 盛大な音をたてて朝のコーヒーを啜る。

 

   ・・・ あ 〜〜 ・・・・ ええ もう慣れました。  文句言う気にもなれません。

   あまぁ〜い キス・・・とはまったく無縁の世界よねえ・・・

 

「 はい、卵焼き。  ほらほら・・・急がないと。 

「 あ ・・・ うん。   ( がば ・・・ ) う〜ん うまいなあ〜〜 」

「 今日のご予定は?  晩御飯はどうするの。 」

「 ・・・え?  ああ ・・・・え〜と ・・・ うん、多分ウチで喰えそう・・・ 」

「 そ。 <多分 > ね。 それじゃ・・・ 残りのオカズを捨てないでとっておくわ。 」

「 ・・・ ウン ・・・ それで  いいや ・・・ 」

寝ぼけマナコが それでもちょっと淋しそうにみえた。

「 うふふ ・・・ なぁ〜んて う ・ そ♪  

 あのねえ 今晩は 肉じゃが なの。  美味しそうな新ジャガがあったの。

 だからちゃ〜んと ジョーの分を最初にとっておきます。 」

「 わ♪ ホント?   ありがとう〜 フラン。  

 それじゃ ぼくの奥さんの肉じゃがを楽しみに♪  ・・・ さあ〜て。 今日も ・・! 」

「 気をつけてね。   ジョーってば最近ずっと夜、遅いんですもの。 」

「 う〜ん ・・・ ごめん。 次の特集、僕のチームの担当になってさ。 皆張り切っているんだ。

 あ でも次の週末はちゃんと家にいるよ。 」

「 そう? 嬉しいわ♪  のんびり休んでね。 」

「 うん ・・・ あ でもな、 ほら・・・ ヨコハマでなんとか・・・ってフェスタがあるだろう?

 あれ、 行ってみないか? 歴史パレードとかあるんだって。 」

「 あらぁ〜〜  いいの? 歴史ある御祭り、ってニュースでも見たの。

 行ってみたいなあ〜って思っていたのよ。 」

「 ウン ・・・ ぼくもね、子供の頃一回見ただけなんだ。

 きっとすごい人出だろうけど ・・・ 行ってみようよ? 車で少し遠回りすれば

 渋滞は避けられるよ。 」

「 ええ お任せするわ。  いいわね〜〜 皆でいろいろ見ましょうよ。 喜ぶわよ〜 」

「 それじゃ パレード見て、フェスタ会場回ってさ その後、買い物に行こうよ。

 モールの方に車 回しておくから。  荷物持ち、やりますヨ、奥さん 」

「 そう? ありがとう〜〜 すごく楽しみ〜〜♪ 

 あ!! ジョー 〜〜 大変大変〜〜〜 20分のバスに乗るなら ・・・ 」

「 え?  あ! ヤバ 〜〜〜 ! 」

最後の一口をコーヒーで流し込むと 彼は椅子をひっくり返す勢いでたちあがり

再び二階へとばたばたと駆け上がっていった。

 

      ふ ・・・ ん ・・・  理想の朝 とは程遠いわよ、まったく・・・

 

口ではぶつぶつ・・・溜息三昧だけれど 彼女は案外楽しそうだ。

頬はつやつや桜色、 亜麻色の髪は朝陽に輝いている。

 

      う ふ♪  やっぱりジョー ・・・ ステキ♪

      週末はおでかけね〜〜 嬉しいわあ〜〜

 

ふんふんふ〜〜〜ん♪  ハナウタ混じりに彼女は後片付けを始めた。

「 このお天気が続くのだったら・・・ うふふふ・・・半袖のワンピースにしようかな?

 今年初めての半袖ね。  な〜んか・・・ふんふんふん ♪ 」

  ― 幸せな人妻が 幸せな想いにどっぷり・・・浸っていた。

週末は 家族で港街にお出掛け ― 太陽と同じくらい陽気な朝となった。

 

 

 

 

 ― タタタ  ・・・・  

 

軽やかな足音が道の端っこから聞こえてくる。

裏道なので そんなに人通りはないけれど、皆無、というわけではない。

それに休日の午後なのだ、人々は皆のんびり・・・歩いている。

そんな中で疾走したら目立ってしまう。

彼女は極力 <ふつう> に振る舞い ・・・ やがて舗道のある場所までやってきた。

「 ・・・う〜ん ・・・  いいカンジに車が並んでいるわねえ ・・・ 

  やたら高級車〜 なんてのもないし、ぴかぴか新車もないわね。

 ふうん ・・・ どれもこれも大事に乗ってます、って雰囲気ねえ・・・・

なにやら携帯を取り出し、盛んに検索をしている。

「 ・・・ ここは調査済み、よね。  え〜と ・・・ 候補は・・・ 」

何気な〜く歩きつつ、パーキング・スペースに並んでいる車を品定めしてゆく。

 ・・・ こんな青空パーキングには 高級車や新車を停めるヤツはめったにいないのだが。

いっぱし事情通ぶっても それはやはりやんごとない身の上・・・ 庶民感覚には

お詳しくないとみえる。

通りすがりに 車のミラーにちらり、と我が姿を確認もしてみた。

 

    よォし ・・・ これならどこから見ても  < 普通の女の子 > よね?

    準備万端〜〜 さあて ・・・?

 

<普通の女の子> が 人通りの少ない道で駐車中の車の中をじろじろ覗いたりは  しない。

下手したら 車上狙い未遂?の窃盗犯 ・・・ に思われてしまう。

しかし ・・・ 彼女はそんな方向にはとんと意識は向いていない。

  ― やがて 最後尾に近いところに乗り慣れたカンジの白い車が あった。

覗いてみれば ・・・ 内部は一応整頓してあり、助手席に白いカーディガンが置いてあるだけだ。

「 ふうん ・・・? この車 最新型ではないけれど丁寧に磨いてあるわよね。

 きっと 几帳面で誠実なヒトなんだわ・・・持ち主さん 」

彼女はなおもしばらくその車を見つめていたが 再度携帯の画面を開く。

「 ・・・ ここら辺りはウチの係りが  調査済み なはずよね・・・ え〜と・・・あ! これね! 」

若い男性が一人、目の前の車から降りて歩いてゆく様子が動画になっている。

・・・ うん、と小さく頷くと 彼女は手にしていた携帯を ぽい、と後ろに放り投げた。

「 ― コレに 決めたわ。  ・・・ 拾っておいてよ!  」

後ろを見ずに声だけかけて、同時にポケットから何かを取り出し、右手に収めた。

   ―  カチ ・・・ カチャ カチャ ・・・・ カッ!

小さな音がほんの数秒聞こえ ・・・・ ガチャ。  白い車の後部ドアが難なく開いた。

「 ふふふ ・・・ 腕は鈍っていませんでした♪  お父様に感謝♪ 」

す・・っと彼女の姿は車内に消えて ドアがまことに静かに閉った。

この間 ほんの数十秒・・・ もし一部始終を見ていたヒトがいたとしても

  < ああ ・・・ 家族の一人が先に戻ってきたのか > と思うだけだろう。

それほど彼女の動作はごく自然で ― 素早かったのだ・・・!

「 ・・・ さ〜て ・・・と。  パーキング・メーター、あと10分位だったわよね。

 ふんふん・・・? なかなかいい感じだわね〜〜 余分な装飾もないし。

 お掃除は行き届いているし。  車ってこのくらいの大きさが一番よねえ・・・

 ウチのはなんだってあんなにバカでっかいのかしら。 」

彼女は  < ウチ > の ロールスロイスがあまりお好みではないらしい。

「 あれじゃ ・・・ ぶっ飛ばせないし〜 車庫入れは難しいし ・・・

 第一 あんなんでカレシとドライブ〜〜 なんて気分にはなれないもの。 」

しばらくコンパクトな室内を見回し ・・・ 後部に置いてある恐竜の縫い包みを手に取ったり

していたが ―  

「 いいわ いいわ いいわぁ〜〜〜 ものすごく気に入ったわぁ〜〜

 もうすぐステキな青年が帰ってきて ・・・ ドアを開けるの。

 ええ もちろん、彼はびっくり仰天よ。 それで・・・  ( 以下 彼女の妄想 )

 

「 ・・・!?  どうしたのですか お嬢さん? 」

「 ・・・ ? あ ・・・ ご ごめんなさい ・・・!  私 ・・・ うっかり車、間違えて・・・ 」

「 え。  ロックしておきましたが? 」

「 あら・・・ 開いてましたわ。 私 ・・・疲れてて ・・・ 眠ってしまったみたい・・・ 」

「 そうなんですか。  お家までお送りしますよ? 」

「 ・・・ あの!  もし もしよかったら ・・・ この街を案内してくださいません? 」

「 え? ぼ 僕なんかでよかったら  」

 

  ― なあ〜〜んて♪ 見つめあって・・・ヨコハマの街を歩くの〜〜

 つかのまの恋〜〜 泡沫の恋〜〜♪ なんて〜〜〜 」

彼女は自分の妄想にすっかり大満足していたが ・・・

「 ・・・ふぁ〜〜〜 ・・・・  あ ・・・っと失礼。  あは 誰もいなんだっけ・・・  」

彼女は大欠伸をし 慌てて口を覆い、誰もいない空間にむかって詫びた。

「 ・・・ な んか ・・・ ねむ・・・ やっぱ時差はキツいかも ・・・ 

 ふぁ〜〜〜 ・・・ ちょ  ちょっと ・・・だけ ・・・ 」

 ―  すとん。   バックシートに倒れ込むや、そのままいい気分で寝入ってしまった。

 

 

 

「 姫さま ・・・ お目覚めですか? 」

きちんと服装を整えた初老の婦人が 特別室の前に立っている。

  コン コン ―  いつもは派手に叩くノックも 今日は控えめだ。

だってここは <外国> のホテル、そして彼らは <非公式> にやって来たのだから。

「 あら まあ 珍しい。  いつもならすぐに 出かけるわ! と飛び出してこられるのに・・・

 いかにお転婆さんでも時差には勝てなかったのかしら・・・ 」

  コン コン ・・・ もう二回だけ、ノックを続けると 彼女は思い切ってドアノブを回した。

「 失礼いたしますよ、姫さま ・・・ 」

  カチャ ・・・軽い音とともにドアが開いた。 

控えの間を通り、メインの部屋に入ったが 室内は薄暗い ― 灯が消えているだけでなく

レースのカーテンが全部引いてあるからだ。

「 ・・・ あら あら ・・・ よくお休みのようですね ・・・ 」

ちら・・っと奥にある豪華なベッドに視線を向ければ  ― すこし盛り上がっている。

「 それじゃ ・・・ お起こししないようにばあやは退出したします ね ・・・ 姫様 」

婦人は低く呟くと 軽く礼をし踵を返そうとした  ―  が。

・・・・・ ふっと いや〜〜〜なカンが働いた。

「 ・・・ うん???   ま さか・・・? 」

彼女は ぱっとベッドに駆け寄った。

 

     「 !!!! あ〜〜〜〜  やられたッ !!! 」

 

ベッドにはクッションとベッド・カバーが上手に丸められて < 横たわって > いて

メモが一枚 ・・・ 伝統的に枕にピンで留めてあった。

 

     ― ちょっと出かけてくるわ。  心配しないで。  キャンディ

 

「 ううう〜〜 す すぐに手配しなくちゃ!  宮殿の門を閉めて ! 衛兵〜〜〜 」

声を張り上げ ドアを開けようとして  ―  ばあやさんはぎりぎり止まった。

「 !!! だめだわ!  ここは ・・・ <ウチ> じゃないのよ〜〜 」

 

    あんのォ〜〜〜 ジャジャ馬姫 〜〜〜 

 

くう〜〜〜 見事に出し抜かれた〜〜 と彼女は心配と悔しさと疲れで。

 へなへなと座りこんでしまった ・・・

 

 

 

 

「 お〜い ・・・ これで全部かなあ〜〜? 」

ジョーはカートから買い物袋を取り出している。

「 え〜と? ちょっと待ってね、確認しますから。  おねがいね?  」

「 うん♪ え・・・・とォ〜〜 お野菜は〜 じゃがいも にんじん たまねぎ〜 きゅうり に なす。

 あとは〜〜 とまと せろり れもん に れたす。 」

「 ぶっぶ〜〜〜! れもん は 野菜じゃないで〜す! 」

「 ウルサイ〜〜 かくにん、だからいいの〜! 」

「 まちがい を そのままにしてはいけませんって えみ先生が。 」

「 なら てつだってよ〜〜〜 ほらほらほらぁ〜〜〜 こっちのお肉とオサカナ みてよ! 」

「 ・・・  おにく と おさかな です! おしまい。 」

「 へ〜〜〜 へんなの〜〜 」

「 ヘンじゃないもん。 これは おさかな。 こっちはおにくじゃん。 」

「 ぶっぶ〜〜。 これは あじ。 こっちは たこ、でしょ。  おにくは ぶたにく と とりにく。 」

「 はいはい よくできました。 だからほら・・・ 袋を運んで頂戴。 」

「「 はあ〜い 」」

「 あ 重たいのはこっちに置いてくれ。  え〜と トイレット・ペーパーに洗剤、と・・・ 」

「 ・・・ 大丈夫、買い忘れはないわね。 」

「 うん。  さ〜 行くよ〜 」

「 うん!  ねえねえ ぱれーど とかおもしろかったね〜〜 」

「 そうねえ ・・・ いろんなパレードがあったわね。 」

「 さすがに港ヨコハマだよな。  外国人もいっぱい見てたね〜 」

「 ジョー。 わたし達もその一部 ・・・って見られてたと思うけど・・・ 」

「 あは  そっか〜   どっかのオヒメサマがお忍びできてたりしてな〜 

 うん、編集部でも話題だったよ。 ほら有名な映画とかあるだろ? 」  

まあ〜  ジョーなんて ほいほい付き合ったりするんじゃない? 

 御祭り案内して 一緒にアイスとか食べたりしちゃって。  あの映画みたく〜 

 それでもって パーティとかにも行って ・・・ 」

「 ・・・ 知ってると思いますが。  ぼくはダンス、できませ〜ん。 」

「  よ〜く存じております  はい。 」

なら 心配ご無用かと ・・・・・ 」

「 はい 心配なんかしてません?  ただ    お忍びの王子サマならいいのに〜 」

「 ・・・   え〜っと?  それはど〜いう意味かなあ〜〜 」

「 ね!  たまのこし  って言うのでしょう?  きゃ〜 見初められたらどうしましょ☆ 

  フラン〜〜〜 」

「 ふん。 コブつきは無理ねえ。 でもね〜 ステキな王子様だったらわたし、

 ほいほいガイドしちゃう♪ 」

「 ・・・ なんか笑えない・・・ 」

「 も〜〜 ジョーったら〜〜♪  おバカさんね♪ 」

「 フラン〜〜♪ 」

「「  さきに ゆくよッ 」」

「 あ  ごめん ごめん〜〜 ほら パーキング まで出発〜〜 」

ジョー達は大荷物をてんでにぶらさげて ショッピング・モールを出た。

 

 

 

「 どっち? 

「 このまままっすぐだよ。  それで 次の信号を左。 」

「 はあ〜い  アタシ、 いっちばん! 」

「 ・・・あ〜〜〜 まって まって まってェ〜〜〜 」

「 こらっ!  先に行くな〜〜 」

「 だっておそいんだも〜〜ん ・・・!!」

「 も〜〜ん!! 」

「 よく見て! 角でとまるッ !!! 」

「「 はいッ!!! 」」

・・・さすが フランソワーズのひと声は威力がちがう。

先に駆け出したちっこい姿は ちゃんと曲がり角で一旦停止、をしている。

「 ついたよ〜〜〜 !!!  はやくぅ〜〜〜 」

「 はやくぅ〜〜〜 」

「 待てってば・・・ もう〜〜 危ないだろう!? 」

「「 ちゃんと みぎ みて ひだり みてからわたった〜 」」

「 はいはい・・・ じゃあ この荷物、後ろに乗せてくりれるかい? 」

「「  は〜〜い♪ 」」

ジョーは 愛車の近づきドアをあけた。

「 ・・・ さあ いいぞ〜〜 」

 

 

「 ・・・ う ・・・ん ? 

いつの間にか寝入ってしまったらしい。 

にぎやかな声が聞こえてきて ・・・ 目が覚めた。

どうやら ・・・ パーキング中のどれかの車に 家族が帰ってきたらしい。

 コツ コツ コツ  タタタタ ・・・

「 ? ・・・あ 足音〜〜  こっちへ来るわ。

 ってことは♪ もうすぐ〜〜〜 持ち主のイケメン君がドアを開けるわね!」

彼女は横になったまま コンパクトを取り出しさささ・・・っと化粧を直した。

「 ・・・ これで おっけ。 えっと ・・・ドアが開いたら ・・・・

  ―   あら??  わ 私 ・・・ どうしたのかしら?    でいいわよね。 」

ぶつぶつリハーサルをして、 彼女は様子良く、寝入っているフリをした。

 

   ・・・ ふふふ もうすぐ もうすぐよ〜〜♪ 燃える恋・・・ になるかしら♪

 

 

  ―   ガチャ ・・・!    ドアが 開いた。

 

 

 

「 わ〜い! お買い物〜 どん!   あ あれえ???? 」

「 なに〜〜 すぴか。  あ???  」

 

      「「   ・・・・ 知らないお姉さんが いるよ?  」」

 

「 ・・・う〜〜ん ・・・ あら?? わ 私 ・・・どうし ・・・え??? ええええ??? 」

エレガントに多少悩ましく 身を起こした彼女の目の前には。

 

 ・・・ 赤っぽいセピアの瞳 と 碧い大きな瞳 のチビっこが じ〜〜〜〜〜っと見つめていた。

 

 

      「  え。   うっそ 〜〜〜〜 ???   も 燃える恋 ・・・は・・・ 」

 

 

 

Last updated : 07,03,2012.                    index       /       next

 

 

 

 

****************   途中ですが

【 島村さんち 】  と  あのおハナシ  のこらぼれ〜しょん??

知らないヒトの車に勝手に乗り込むなんて

ものすご〜〜〜〜くリスク高いですよねえ ・・・

ほら やって来たのは  二人の子持ちパパ  だったじゃん!